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  • 執筆者の写真Satoshi Murakami

ブレードランナー2049

更新日:2017年11月11日

注:ネタバレあり。


時は1982年。公開時の興行成績はイマイチだったものの、ビデオの普及などに伴ってくりかえし鑑賞される中で、そのディストピア的世界観が徐々に浸透し、われわれの「未来」イメージを刷新し、作品自体もカルト映画と化し、それ以降生み出されたさまざまな映画や音楽や漫画やアニメやファッションやプロダクトデザインなど、ありとあらゆるジャンルに多大な影響を与えまくったSF映画の歴史的名作『ブレードランナー』。


その35年ぶりの続編である本作『ブレードランナー2049』については、観た人みんながあれやこれやと語りたくなる魅力が満載で、

やれリドリー・スコット監督の世界観を引き継ぎつつ自分の美意識で2049年のロサンゼルス(とその周辺)を描き出したドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はやっぱりすげえ!とか、やれ微細な表情の変化で感情を伝えるライアン・ゴズリングの表現力はやっぱりすげえ!とか、やれロビン・ライトはどうしても大統領夫人に見えてしまう!とか、やれ終盤のハリソン・フォードは溺れてるばっかで流石にもうちょっと見せ場が欲しかった!とか、やれジョイ役のアナ・デ・アルマスが超かわいかったしあのラブシーンは映像的にも美しくて切なくて感動した!とか、色々言い出したらキリがないわけですが、


そんな、すばらしい映像と音で紡がれた物語の中で個人的に気になったテーマをあえてフランス語で言うと、まさに D'où venons-nous? Que sommes-nous? Où allons-nous? って感じではないでしょうか?と書いてはみたものの、どう発音するんですかね?ドゥヴェノンヌ?クサムヌ?オゥアノンヌ?みたいな感じですかね?まぁよく分からないので日本語に訳しますと、


『我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか』


そう、ポール・ゴーギャンのこの絵↓↓↓のタイトルですね。


とはいえ、『我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか』などという大きな問いはきわめて根源的かつ本質的な問いなので、別にゴーギャンとブレードランナーの専売特許ではもちろんありません。

『ブレードランナー』同様、『メタル・ユルラン(英題ヘヴィ・メタル)』誌上でメビウスらが提示したような猥雑で混沌とした未来描写に影響を受け、ほぼ同時期に誕生した大友克洋の『AKIRA』も、士郎正宗の原作を押井守が映像化した『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』も続編の『イノセンス』も同様のテーマを描いていましたし、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクことエメット・ブラウン博士も、タイムマシンを発明した動機として同様の問いを口にしてましたよね。また、フィクションではなく現実の世界においても、古今東西さまざまな哲学や宗教や学問や芸術も、根っこをたどれば、この問いかけにそれぞれの仕方で答えようとする試みだと言えるでしょう。


そして、前作『ブレードランナー』と本作『ブレードランナー2049』において、この問いをわれわれに提示してくれるのが、遺伝子工学により生まれた人造人間「レプリカント」の存在です。よくレプリカントを「=ロボット」と認識している方がいらっしゃいますが、彼らはロボットではありません。人造人間です。人工的に製造されるという「誕生」の方法こそ違いますが、生まれて数年もすれば感情らしきものが芽生え、殺される(=解任される)時の描写を見る限りは、われわれ同様、痛覚もあるようです。

彼らは機械ではありません。「人造」ではありますが「人間」なのです。


この、われわれに似て非なる曖昧な存在によって、「人間」の定義が揺さぶられます。


では、「人間の条件」「生命の条件」とは何でしょう?

痛みを感じることでしょうか?他者の痛みに共感することでしょうか?喜怒哀楽があることでしょうか?生きたいと願う心があることでしょうか?だとすれば、自分たちを支配する人間たちに反抗し、仲間と協力し合い、仲間の死に怒りを覚え、もっと生きたいと望むレプリカントたちも人間と言えるでしょう。

いや、もっと単純に、生物として自然なサイクルで生まれてきたか否かでしょうか?だとすれば、たしかに前作に登場したタイレル社製のレプリカントは、人間とも生命とも呼べないかもしれません。ですが、本作ではレプリカントたちの「妊娠・出産」の可能性が描かれますし、タイレル社の技術を引き継いだウォレス(ジャレッド・レト)は、レプリカントを増やすために、彼ら自身による「繁殖」を目論んでいます。


もしウォレスの望みどおり、レプリカントたちが繁殖できるようになれば、仮に最初の世代が人間によって製造されたとしても、その後続世代とわれわれの間には、いったいどんな違いがあると言えるのでしょうか?

その時点で残る差異は、眼球に個体ナンバーがあるか否か、身体能力がふつうの人間を越えているか否かくらいしかなく、それらはいずれ、髪の色や肌の色や人種や国籍ほどの意味しか持たなくなるかもしれません。その差異は根深い断絶を生む根拠とみなされるかもしれませんが、実はそれほど意味がないものになるかもしれません(あるいは身体能力で劣るふつうの人間がいずれは淘汰され、レプリカントたちが今の人間のポジションに成り替わるのかも知れません)。


しかし、レプリカントが人と同様の繁殖能力を手にしたとき、人とレプリカントの関係性は、よりいっそう差異がなくなると同時に、『創世記』における神と人、造物主と被造物の関係のような、圧倒的な差異を抱えることにもなります。

最初は人間に製造されたレプリカントたちが、やがて自発的に繁殖して数を増やしてゆくというウォレスの野望は、土から作られた男とその肋骨から作られた女の子孫たちが、そこらへんの土や骨を材料にするのではなく、人と人との交尾によって増えていったという、聖書で描かれる人間の繁栄のプロセスの反復です。

その意味で本作は、「人間が科学技術によって神となり、己の似姿であるレプリカントを創造する物語」であると同時に、「神と人、造物主と被造物が共存する可能性を示唆する物語」でもあります。


自身もレプリカントでありながら同胞を抹殺する任務をこなし、孤独に生きてきた主人公K(ライアン・ゴズリング)は、レイチェル(ショーン・ヤング)の遺骨を捜査し、デッカード(ハリソン・フォード)の秘密を追ううちに己の使命を見出し、主体的に生きることで精神的に「人間」になろうとしますが、そもそも人間とレプリカントを分ける壁はそれほど高く分厚いものなのでしょうか?

たとえばレプリカントたちはみな、自分の過去もその記憶も偽物かも知れないという恐怖ととなり合わせですが、それはわれわれも同じです。われわれが事実だと信じている過去もその記憶も、それが本物である保証はありません。

たとえばレプリカントたちはみな、『フランケンシュタイン』のクリーチャー同様「被造物の哀しみ」を背負っているように見えますが、それはわれわれも同じです。産まれる前に産んでくれと頼んだ訳でもないのに気が付いたら他ならぬ自分としてこの世に生きていたのです。主体を持たないままこの世に放り出され、ふと自我が目覚めたときにそのことに否応なく気付かされるというのは、人間もレプリカントも同様です。


レプリカントたちが抱える苦悩として描かれるものは、人間の苦悩の鏡像です。

人間とレプリカントは、神と人、造物主と被造物、または差別者と被差別者のような関係でありながら、同じ苦悩を共有する同志でもあります。それは、感情を持ち、主体的に考える生き物に与えられた特権でもあり病でもあります。


その共通の苦悩を言葉にすれば、『我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか』という問いかけになるのではないでしょうか?


しかし、過去もその記憶も真偽が定かではなく、未来を知ることもできないわれわれは、『どこから来たのか?』にも『どこへ行くのか?』にも答えることはできません。できるのは『我々は何者なのか?』を単数形に読みかえ、『私は何者なのか?』を自分で決めることだけです。

それが、ジョイ(アナ・デ・アルマス)との虚構の愛を失い、自分は人とレプリカントの間に生まれた特別な存在かも知れないという希望を打ち砕かれても、Kが最終的に成し遂げたことの意味だったのではないでしょうか?




と、そんなことを思いました。




では最後に、余韻に浸りながら改めて予告編をどうぞ。

いやー、かっこいいですねー。

もし未見の方がいらっしゃいましたら(ここまで読んでくださって未見だったら衝撃ですが笑)、ぜひお早めに映画館に行っていただきたいです。


が、その前に少なくとも

は、観といた方が良いですよー。


そしてもう少し余裕がある方は、現在youtubeで公開されている3本の短編

もチェックされることをお勧めします。


まぁ「俺はあえていきなり『2049』から観るぜ!」という実験精神ももちろん否定はしませんし、そういう方がどんな感想をお持ちになるのかも伺ってみたいですが、今回の『2049』は、あくまで前作ありきの物語ですし、随所にオリジナルへのリスペクトやオマージュの類が散りばめられていますので、前提となったできごとや基本的な世界観を理解しておいた方が、より楽しめることと思います。


ではでは。




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